「集まる場所が必要だ」それって空き地にあるドラム缶みたいなもの?

「集まる場所が必要だ 孤立を防ぎ、暮らしを守る『開けれた場』の社会学」
 エリック・クリネンバーグ著 藤原朝子訳 英治出版

「集まる場所が必要だ」この言葉を目にしたとき、まず頭に浮かんだのが、赤茶けた大地にすっくと立つ一本の木。私が、そこにいたら、きっと木に引き寄せられただろう。そして、次に漫画「ドラえもん」の作中でのび太君やその友達が集まる公園に置かれたコンクリートのドラム缶。

もし、木がなかったら私はそこへ足を運んだろうか? ドラム缶がなかったら、のび太たちにとって、良く集まる公園となったかどうか。

人が集うかどうかは、一般には個人または集団の意思によると考えられていると思う。しかし、著者は図書館や公園、遊び場、学校、運動場、市民農園など社会生活を条件づける物理的な場である社会的インフラ(人間関係や人的ネットワークを測定するときに使われる「社会関係資本(ソーシャルキャピタル)」という概念とは違うことに注意)こそが重要だと主張する。なぜなら、社会的インフラがあるからこそ、人は自分の楽しみのためにその場を訪れることになり、結果的にその場で他者と継続的反復的に交流し、人間関係を育てることになるからだという。

・反復的な交流と共同プロジェクトの参加が、社会にまとまりを生み出す(ボランティア組織は有効)
・「近接的かつ直接的な交流と愛着のバイタリティーと深さ」ジョン・デューイ
・「孤独なボウリング」ハーバード大学ロバート・パットナム(公共政策)
 →健康や幸福感、教育、経済的生産性、信頼が低下したのは、コミュニティが崩壊して市民団体に参加する人が減少したことが原因だ。
・「階級『断絶』社会アメリカ」チャールズ・マレー(保守派論客)
→共通の問題を解決するため自発的に集まることを前提にしてきた市民文化は共有されもはや民間宗教レベルであったが、近年はアッパークラスが集団プロジェクトを放棄して「空間的、経済的、教育的、文化的、政治的に断絶」した別個の社会を形成している。国が階級を超えた連帯感を再生しない限り、今までの社会を形作ってきた連帯感を失われると警告。
・ボランティア活動に従事する時間はさほど減っていないが、「ほとんどの人を信用していない」と回答するアメリカ人は増加。
ネットやSNSなどの自分の世界への没入と関連しているだろう。
・道徳的な警告だけでは、人々の地域への関与は回復しない。人々が過ごす場所を工夫しなければならない。

★人々が過ごす場所を工夫するとどうなる?
・社会のつながりやコミュニティ構築、市民参加の機会を増やすことができる。
・社会的・物理的な環(インフラストラクチャー)は人間の行動に知らず知らずのうちに影響を与える。それが私たちを育て、私たちの生き方を決める。

★ソフトなインフラ(社会的インフラ)
・物理的に構築されたインフラは人間関係の幅や深みにも影響を与える。
・図書館、学校、公園、運動場、スイミングプールなどの公共施設のほか、歩道や中庭、市民農園などの緑地。
・教会や市民団体などは人々が集まる固定的かつ物理的スペースがあれば社会的インフラとなる。
・カフェや理髪店や書店などの商業施設、定期的なマーケットなど、何も買わなくても長居することが歓迎される。
・ただし効率を重視する社会インフラでは、交流や人間関係の強化は抑制される。
・自然環境も社会的インフラになりうるが、整備と維持のため投資が必要。
※一方、ハードなインフラ(基幹インフラ)とは:輸送システム、電力・ガス・石油などのエネルギー、食品、金融、上下水道管通信、風水害対策システムなど

★社会インフラが衰えると
・人々は公共の場で過ごさなくなり、安全な自宅にこもっている時間が増える。
・社会的ネットワークが弱くなる。
・犯罪が増える。
・高齢者や病人が孤立する。
・社会に対する不信感が高まり、市民の参加は衰える。

★基幹インフラの更新に合わせて社会的インフラ整備という視点に取り入れるべきである。
・アンドリュー・カーネギーは世界中に建設した2800か所もの壮大な図書館を「人々のための宮殿(パレス・フォー・ザ・ピープル)」と呼んだ。ライフラインになると同時に人々のための宮殿となる場所を構築できる。

★大学
・市民としての寛容性
・コミュニティ構築のスキル
・アカデミックな学びの理想的な場
・違いを理解し、証拠を評価し、自分と異なる視点や価値観を持つ人と理路整然とした対話をするのに必要なスキルを教えてくれる。
・アメリカのキャンパス設計者たちは「食事を学習と交流のスペース」をデザインした。社会の絆を強化し、新しいコミュニティを作るために。

★高齢者を外出させる仕組み
・シンガポールの公営団地には体操ができる広場と住民が思い思いに集まれる空間、「ホーカーセンター」と呼ばれる屋台村などの活気があり清潔で手入れが行き届いている共有エリアを備えている。
・一人暮らし世帯割合世界一のスウェーデン:40歳以上向けの集合住宅「フェルドクネッペン」個室のほかにさまざまな共有スペースとプログラムが用意されている。コレクティブハウジング
・自動遊具で遊び始めた65~81歳高齢者40人→3か月で身体能力が改善し、転倒リスクが低下した。

★子供の身体的な健康と社会性の発達は屋外で遊ぶ場所があるかどうか
・市民生活の助けになるような対人スキルを学ぶのは、「よそ」へ行って新しい社会状況を自分たちで切り開かなければならない時だ

★理髪店では大論争になりそうな意見も気軽に言うことができて、みんながある程度納得するまで、徹底的に議論できることだ。理髪店を出るとき、男たちの孤独感や脆弱感は薄れている。そこで築いた絆は、その後、社会に橋を架ける力と外の世界と関与する覚悟を与えてくれるのだ。

★アメリカでは2010年以来、500年に一度レベルの大型ハリケーンを24回も経験している。世界中の国と都市が今、地球温暖化による気候安全保障の問題(海面上昇、大型化する嵐、気温上昇と長期化する熱波、干ばつ、移民水や食料や土地などの基本的資源を巡る紛争)に直面しつつある。すでに排出された二酸化炭素は今後何世紀にもわたり大気中に残存して、海水温を上昇させ海面は数千年にもわたり上昇し続けるだろう。

★アメリカ政府と災害対策立案者たちは、気候変動対策としての社会的インフラの重要性に気づきつつある。

※オバマ大統領「国家保険安全保障戦略(NHSS)」

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